パレット
「神林くんもこれ、弓美に言わないでね?」
「サプライズってやつ?」
「うん。だから、これも秘密」
わたしたちの間の秘密が、2つに増えた。
それからはだんだん、それぞれの作業に集中していく。
台紙は5枚描くつもり。
ピンクの桜の台紙を仕上げたから、次は水色のイルカの台紙かな。
さっき線だけペンで書いたから、まずは消しゴムをかけて、次に薄い色から塗って……
「いっっ……てぇ!!!!!」
えっ。
「うわ、ヤバい、切った」
「えぇっ」
びっくりして見てみると、神林くんの左手の中指から血が垂れていた。
「わっ、ちょっ、ティッシュティッシュ! はい!」
「あっありがと、もらいます!」
本人も慌てて抑えてるけど、けっこうな勢いで血が染みてきてる。
「こういうのって、心臓より上にするのがいいんじゃなかったっけ?」
「こう?」
何枚もティッシュを重ねながら、手を持ち上げてる。
そしてなぜか変な沈黙……。
相変わらずサッカー部の声がよく聞こえる。
人気を感じない4階の片隅。