パレット
たしかにわたしは、いつも何もいじらない髪を、今日は結んでいた。
去年の誕生日に弓美からもらった、蝶のモチーフの髪ゴムで。
「う、うん……。長いし、暑くなってきたから……夏は、部活の時だけ結んでるよ?」
「やー、なんかずっと違和感あったんだけど今気付いてさぁ、戻ってきちゃった」
それを言うためだけに戻ってきたの?
「ぷっ」
「あっなんだよ笑うなよーちゃんと気付けるオトコアピールなんだから!」
「アピール! それ、自分で言っちゃっ、ダメでしょ……あはっ、しかも気付いたのギリギリだし」
ひとしきり笑ってたら。
気付くと、外は夕立が降ってきてしまっていた。
仕方ないから少し待っててもらって、駅まで、わたしの傘で一緒に帰った。
傘はあんまり大きくなくて、私は右肩、神林くんは左肩が濡れてしまって。
それに、神林くんはわたしが笑ったのが気に入らないらしくて少しむくれてたけど。
電車も、そういえば同じ方面だった。
「また明日な」
わたしのほうが先に降りる。
また明日。
その言葉に、わたしの中で何かが羽ばたく。