パレット
垂れ幕を描きながらも、ニヤニヤが止まらない。
これじゃ本格的に変な人だよ、私。
お昼になって、コンビニに行って、戻ってきてもまだ止まらない。
だって、わたし、少しはがんばったよね?
電話帳に増えた、『神林槙十』のページ。
ねぇ、もっとがんばってもいいのかな?
神林くんを好きになってから、世界がずっと色鮮やかに見えるんだ。
絵に描こうとしても描けないくらい、綺麗で、キラキラしてるんだよ。
なんでもない、コンビニで買ってきたお蕎麦が、すっごく美味しく感じちゃうんだよ。
「よし、おっけー」
垂れ幕はこのまま乾かしておいて今日は美術室に行こう。
夕方、乾いたらしまえばいっかな。
文化祭でも展示するし、11月には都が主催する芸術祭があるから、美術部の方もそれなりに忙しい。
それに、夏になって、後輩の一人が来るようになったんだ。
「先輩、なんか嬉しいことありましたか?」
黒髪を肩で揃えて切った、背の低い色白の女の子、柏葉七海(かしわばななみ)。
自分で言うのは変だけど、わたしとちょっと雰囲気が似てるかも。
七海のほうがずっとかわいいんだけどね!
「そ、そう?」
それに、七海は、案外鋭いとこがある。