パレット

わたしはいつもどおりキャンバスに向かって、七海は、よくわからないけど何かのオブジェを作ってる。

お互い作業をしながらぽつぽつ会話するのって、わたしは、けっこう好きなんだけど。


「先輩って、神林先輩と同じクラスなんですよね?」

どきん。

突然出てきた、その名前。

はぁぁつい反応しちゃう。

まさか、ばれて……?


「そ、そうだよー」


いやいやそんなはずないよね……。

神林くん目立つから、後輩にもよく知られてるし。


「どんな人ですか?」

「……なんで?」

「いえ……友達が、毎日飽きずにカッコイイと騒いでいて」


あ。


「そっ、かぁ。スポーツなんでもできるし、友達多いし、誰にでも明るく接してくれるもんね」


そうだよ、神林くんは誰とでもすぐ仲良くなれちゃうんだよ、誰とでも……。

だよね……。


わたしのケータイに登録されてる『神林槙十』はとても特別だけど、神林くんのケータイの中の『笠原弥白』は、すごく大勢の中の一人なんだなぁ。



「遅くなっちゃった、早くしまわなきゃ」


あれから、思ったように作業が進まなくて。

恋って、忙しいなぁ。

アドレスもらって喜んでたのは今朝のことなのに、今は、なんとなくうじうじしてる。


廊下に出しっぱなしの垂れ幕をしまわなきゃなのに……歩いててものろのろ、いろんな音も遠くに聞こえて。

わかってたはずなのに。

神林くんは学年でも目立つ人で、わたしは地味〜な子だって。


奥隣のクラスから騒がしい笑い声が響く。

ああいう風に、賑やかな輪の中に入って騒げたらなぁ……。


「だいじょーぶだって、バレないバレない! それにバレたって、あれだろ? あの大人しそうな奴が一人で作ってるらしいじゃん」

「笠原だよ、笠原」


ん?

笑い声に混じって、わたしの、名前?


聞かない方がいい。

わたしの直感が全身を駆け巡る。


でも、足が、動かない。
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