パレット
「わたし、すぐ行かなきゃなんだ」
嘘だけど。
「これ、あげる」
一緒にいると苦しいから……ベタだけど、はちみつレモン、作ってきた。
ハタから見たら、わたしからって、わかんない。
「えっマジで!? いいの? やったぁ」
そんな笑顔、見せないで。
もう決めたんだから。
ダメだよ。
「うん。配ってもいいけど、わたしからって、内緒だよ」
「? うん? わかった。ありがとな!」
階段下からバスケ部のマネージャーをやってる女の子たちの声が聞こえたから、早足に去る。
決めたんだ。
決めたんだ。
決めたんだ。
神林くんを好きなのは、もう、やめる。
こんなに話せるようになっただけでも奇跡なんだよ。
わたしみたいな、地味で、なんの役にも立たない、暗い女の子。
大丈夫、まだ、そんなに好きじゃない。
そんなに、好きじゃない。