親友と傘
「家に帰ったほうがいい。ずぶ濡れだから。風邪ひくよ。」
またうつむき加減に
「別にどうでも。」と答え、立ち上がった。
歩き出そうとしたとき腕を掴まれた。
興味なさげに掴まれた腕を見ながら「何ですか?」と小さく言った。
「家に帰るの?」
心配そうな声が聞こえた。
(他人に心配?同情?うざい)
振りほどこうとしたがさらに掴む手に力が入った。私は観念して首を横に振った。
「何で?」
(この質問・・・補導員と同じだ、やっぱりみんなと同じ、そして、答えるとはぁ?って顔して無理やり家に帰すんだ。)
そう思ったが女の人の質問に答えた。
「居心地が悪くて・・・。」
帰ることを覚悟した。だが女の人は私の腕から手を離すと傘からも手を離して、そっと私のことを抱きしめた。
びしょ濡れの服が体にひっついたところから冷たさと抱きしめられ触れているところから温かさが伝わってきた。
幼い頃、母から、父から抱きしめられた記憶が甦ってきた。
(抱きしめられたのって何年ぶりだろう・・・。)
自然と涙があふれ流れた。泣くのも何年ぶりだった。
「私の家においで。話、聞いてあげる。」
と耳元で優しく言った。
私は泣きながら小さくうなずいた。
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