トリップ少女
「そうか…」
もう一度物語に目を通した
若菜とミランが出てくるわけではないが、確かに二人がしたように物語は書き換えられていた
「これでわかるように、あなたの行動次第でいくらでも過程は変わるの。過程が変わるだけならまぁ良いでしょ、トリップしなくったって物語は変化していくものだから」
「そうなの?」
「あなた古典の授業聞いてないの?同じ桃太郎でも、地域によって時代によって内容が若干違うでしょうが!」
「えぇ!?そうなの?そんなの初めて知ったよ!!」
「な、なんてこと…!」
顔を本気で青ざめさせて「これだからゆとりは…」とかなり引いているミランを押しのけて、アルスランが話し始めた
「とにかくな、若菜、物語は変化し続ける。歴史が長くなればなるほど、だ。でもそれでも変わらないものがある」
「それが結末?」
「そうだ。中には変わっているものもあるが…ほとんどは不変だ。結末を変えてしまったら、もはや別の物語になってしまうだろ?桃太郎は鬼退治の話じゃなくて、鬼の代わりに悪者になる話になってしまうかもしれないんだ」
「だからこそ、逆に結末を変えちゃいけないってわけね」
「そうだ。だから結末部分は変わらないようにしているんだ」
若菜は妙に納得した
物語の過程は変えられる
でも結末だけはどんなに頑張っても変えることは出来ない
この意味がようやく分かった
「でも大丈夫だ。過程だけなら、変わっているのは若菜がトリップしたこの本だけで、世界中の人魚姫の話が変わっちゃったわけではないからな」
「ねぇ」
目をキラキラさせている若菜を制したのは衝撃からいくらか立ち直ったミランだった
「若菜、遅刻するんじゃなかったの?」
「あー!!!!そうだった!!!」
若菜は荷物を一式もって、飛び降りるように階段を駆け下りていった