月夜の太陽
カーテンを少し開き、隙間から覗くように景色を盗み見る。


まだ日は昇っていて、清々しいほどの景色が広がっている。


エメラルディア家の城以外で街の外に出るのは初めてだった。


段々と薔薇の香りが濃くなってきて、そろそろだなと思った。


ルナの血を飲み、城で色々な訓練を受けるようになってからは、以前に比べ視力や聴覚、臭覚が敏感になり始めのうちは戸惑った。


必要以上によく見える目に眩暈を起こし、いろんな音が耳に入ってくるせいで耳鳴りを起こし、苦手な匂いが鼻につくようになり吐き気を催したり……最悪だと思った。


でも初めてルナと一夜を共にした日、全てがよく聞こえ、目に映り、落ち着く香りをずっと感じていられる事にこの上ない幸せを感じた。


そんな事を思い出しながらボーっと外を眺めていると、馬車の動きが止まり、真っ赤な薔薇が咲き誇っている景色に目を奪われた。



『ソル様、到着致しました』

『……ありがとうございます』



俺たちはずっと街で暮らしてきて、今まで様なんて付けて呼ばれたことがなく未だになれない。


だが、様をつけないでくれと言うと皆困った顔をするため、もう言わないことにしている。



ドアが開き、ゆっくりと腰をあげ外へと足を踏み出した。


腕を上げ伸びをすると、ずっと座っていたせいか気持ちがいいほどひしひしと音が鳴った。


澄んだ空気を鼻から吸い込み口からゆっくり吐き出す。


心を落ち着かせ少しだけ気合を入れると目的の場所へと足を進めた。






< 351 / 471 >

この作品をシェア

pagetop