月夜の太陽
墓石の前に胡坐をかき座り込み、しばらくただ何も考えずにバカみたいに眺めていた。


エルグラムさんたちは気を利かせて離れた場所で待機してくれている為、気を遣うことも周りを気にすることもなく穏やかな時間が過ぎていく。


あれ程憎み嫌悪感を抱いていた相手だったはずなのに、こうして向き合っているとそんな気持ちが薄れていくようだった。



『あんたは、自分に息子がいるなんて思ってもみなかっただろうな。俺も父親が悪党だとは思ってなかった。悪党なんてもんじゃない…ぴったりな言葉が見付からないほど酷い』



相手は石なわけで、勿論返事は返ってこない。


だけどぶっちょう面で自分の墓石に座り、俺の事を見下ろしているような気がした。



『あんたは幸せだったのか…あんな生き方をして………』



もしも死に際に幸せを感じ、それが最初で最後の幸せだったとしたら生きていた時は地獄だったんじゃないか、と思った。


自分の苦しみを紛らわすように依頼を受けるまま沢山の人たちを殺したのか。


もし苦しんでいたとしたなら原因はなんだ。


お前のことをこんなに考えていてもお前は喋らないし、日記のようなものも残していないから一生お前の事を分かることはないんだろうな。



『俺はあんたに似てるらしい、ローズ様がそう言っていた。………ローズ様を助けてくれてありがとう…お陰で俺はルナに出会えた…こればっかりはあんたのお陰だ』



柔らかな風が吹き、導かれるように葉や花びらが空へと舞い上がった。


空を見上げると眩しいくらいの太陽が昇っていて、思わず目を細める。


その時背後に知らない気配を感じ振り返ると、そこには知らない女の人が花束を持って驚いた顔をしてこっちを見ていた。







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