月夜の太陽
「たまに花束が置いてあったから誰か来ているんだろうなとは思っていたんだけれど、まさかお会いできるとは思っていなかったから驚いてしまったの…驚かせてしまってごめんなさい」

『いえ、こちらこそ驚かせてしまってすみません。この沢山置かれた花束はあなたが?』

「えぇ、ここに咲いている薔薇には敵わないかもしれないけれど、アッシュの好きな花を傍に置いてあげたくて……」



アッシュ?


墓石には間違いなくカイン・アレイストロと刻印されているから間違えるはずはない……と思うんだが……間違えているんだろうか。



「ごめんなさい…今はカインという名前だったわね。まだその名になれなくてつい………」

『カインはアッシュという名前だったんですか?』

「そう、アッシュという名前は私が付けたの。だから私も本当の名前は知らないの……名前が何だろうと彼は彼よね………」

『失礼ですけど、カインとはどういう関係だったんですか』



彼女は穏やかな笑顔を向けると、そっと俺の隣に座り優しく花束を供えた。


目線を墓石から外すことなく彼女は口を開いた。



「カインは私の大切な息子。たとえ血が繋がっていなくとも、カインと過ごした数年は幻でも夢でもなく本物のかけがえのない幸せな時間だった」



愛おしそうに刻印された名前を何度も呼んでいるかのように見詰めている彼女の頬に光るものが流れ落ちた。







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