月夜の太陽
「ローズ様はさぞカインの事をお恨みになっておいででしょうね……」

『それは違います。ローズ様は自分がカインを死なせてしまったと、今でも深い悲しみと感謝を胸に生きておられます』

「そんなはず…ないわ……だって、あの子の作った組織のせいでローズ様は恨みきれないほど苦しく悲しい思いをしたに違いないもの。そして、あの子にそんな事をさせてしまったのは全て私のせい………」



エリーは昔を思い出しているのか、辛そうな顔をして遠くを眺めている。


俺も同じ方角を見詰め深呼吸した。


無限に広がる雲ひとつない綺麗な空。



『カインの最期はローズ様が看取って下さったそうです。シエル様が仰るには腹が立つほど幸せそうな穏やかな顔をしていたと……』

「……良かった…苦しまずに逝けたのね」

『何故、カインを捨てたんですか。そんなにも大切に想っているのに』

「捨てた……そうね、そうかもしれない。ただ…幸せになって欲しかったの……私が一緒にいなくても」



エリーは自分の右手に左手を添え、その右手を悲しそうに見詰めていた。


まるで後悔をしているようだった。



『何があったのか、教えてもらえませんか』

「……分かりました」



さっきまで微かにしていた鳥たちの囀りが止み、まるで自分たちも話を聞く準備が出来ているとでも言いたげに耳を済ませているかのようだった。






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