月夜の太陽
昔を思い出して苦しそうな顔をしつつも、時折微笑みを混ぜながら話してくれていたエリーの表情が、暗く悲しい表情へと変わった。



「私たちは手を繋ぎ、一生懸命走って逃げたわ。だけど追っ手が迫って来ている事に気付いた私はカインに先に行くように伝えた……あの子は嫌だと泣きじゃくったわ………」

『…………』

「私は心を鬼にしてカインの頬を打った……そして、待ち合わせの場所を決め、先にそこで待っていてほしいとお願いしたわ。でも万が一の時は今までの事を忘れて新しい人生を歩みなさいと…勿論私の事も含めて、ね」

『待ち合わせ場所には』



エリーは力なく首を左右に振り、鼻を啜った。



『何故待ち合わせ場所に行かなかったんですか?こうして生きているということは追っ手を免れたんじゃないんですか?』

「こう見えて私は元々貴族の出なの。だから簡単な結界くらいは張れるの……少しは逃げる時間を稼いであげられると思った。どうにか頑張ってはみたのだけれど、一日が限界だったわ…その時殺されると思った私は何故だか屋敷へと連れ戻されたの」

『連れ戻された?それで…生きてはいるけどカインの元へは行けなかったんですね』

「連れ戻されてからがまた新しい地獄の始まりだったわ……伯爵は私を殺すのではなく死なないようにいたぶった。時には怒りをぶつける様に、時には暇つぶしの為に…理由は様々…理由がない時もあったかしらね………」



それを聞いて俺は言葉が出てこなかった。


人っていうのは語り合うまで過去に何があったかなんて分からない…そんな目に合っていた事を知ると、エリーの曇りのない笑顔を見ると辛い気持ちになった。


なんて強い女性なんだろう……強い、そんな言葉では表せないかもしれない。






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