青春の蒼いカケラ
 僕は二週間ぶりに新宿のクリニックへとやってきた。ノリちゃんと暮らすようになって、最近はかなり落ち着いている。
 今日、予約を入れた理由は、もうひとつある。担当の先生に、結婚の報告をする為だ。僕も彼女も患者と云う身分には違いない。やはりここは先生のお墨付きが欲しい。そう思っていると、僕の順番がやってきた。
「こんにちは」
「最近、どんな感じ?」
「はい。お蔭さまでよく眠れます」
「それじゃ、いつもの薬、出しておきますね」
「あ、先生!」
「どうされました?井上さん」
「実は……結婚したい相手が出来まして」
「ほほう。それはいいお話ですね。お相手はどんな方ですか?」
「同じ病気と闘っている人です」
「共に闘う人が出来るなんて、素晴らしいじゃないですか」
「彼女と結婚しても大丈夫ですかね」
「そりゃ私に相談する事じゃなくて、本人同士が決める事でしょ」
「じゃあOKですか?」
「当然です」
 僕は先生に『ありがとうございます』と言って診察室を出た。先生から、しっかり太鼓判を押され、気分的にも楽になった。これで結婚式の準備も進められる。
 招待客は、僕らの伯父夫婦とノリちゃんの元の職場のユウコさん。それにいつもの悪ガキトリオ。その中でもカッちゃんとジュンちゃんは結婚している。僕は仲人をカッちゃんにお願いした。
 結婚式場は調布ビューホテル。念の為、遠方からくる人の分の宿泊も押さえた。式場も残り二ヶ月しかないのに、ちゃんと予約する事が出来た。まるで奇跡だ。もしかしたら天国で見守っていてくれる人達が、僕らにプレゼントしてくれたのかも知れない。
 あっと云う間の二ヶ月は過ぎ、ついに僕らの結婚式は始まった。
 司会者のマイクの前では、ガチガチに緊張したハルオちゃんが、進行役を務めてくれている。
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