青春の蒼いカケラ
 ミチザネ君の話しぶりだと、どうやら前の学校では番長格だったらしい。彼と一緒の学校からきた連中に聞いた話だと、以前、ひとりで二、三人を相手にして大立ち回りした事もあるとか。鰺ヶ沢の時から一緒のナカタ君も番長格だが、彼とはタイプが違う。僕は一目でミチザネ君に男惚れしてしまった。
 一学期の中間試験の日。二十分くらい過ぎた頃、背中にコツコツと手の当たる感覚を覚え、チラッと後ろに目を遣ると、ミチザネ君がニヤッと笑いながら『見せて』と言って手を合わせていた。
 僕には断る理由はなかった。
 その後も背中を叩く度に先生にバレないよう、注意しながら見せる。そうこうしているうちに、テストは無事終了した。
「なおちゃん、ありがとう」
「いいって。それよりどうだった?」
「俺、チンプンカンプンでさ。助かったよ」
「そうか。またいつでも見せてあげるよ」
「恩にきるよ」
 一週間後、数学の答案用紙が返されると、僕とヤマシタさんの二人だけが満点で、先生から褒められた。ミチザネ君は八十点。それでも今までの彼の成績からすれば奇跡に近い。ミチザネ君は帰りのバスの中で、僕が途中で降りるまで何度も僕にお礼を言ってきた。余程嬉しかったのだろう。
 中三の一学期も終わりに近づいて、青森に短い夏がやってくる頃には、いつしか僕も『沼尻一中の三羽烏』と呼ばれるまでになっていた。
 ミチザネ。
 ケンタロウ。
 そして、僕。
 同じクラスのケンタロウは、常にナイフを持って歩くようなちょっと危険なタイプ。三羽烏とは云え、常に三人がつるんでいるわけではない。ケンタロウにはケンタロウの舎弟がいて、いつもゾロゾロと引き連れている。
 僕は将来的にケンタロウ一派との衝突も考えて、今まで以上に常にミチザネ君と一緒にいるようになった。
 夏休みが終わり、僕は頭をリーゼントで固めて登校した。やはりかなり目立つようで、周囲の視線が突き刺さる。その中でもケンタロウの舎弟のひとり、ヨシヒコからの視線が一際強い。授業中も常にこちらを向いている。
 案の定、授業が終わると真っ先に僕のところまでやってきて『ちょっと顔貸せや』と因縁を着けてきた。
 
 
 
 
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