青春の蒼いカケラ
 充実した中学校生活もそろそろ終わる。
 僕は先生に『お前、進路は決めたのか?』と聞かれ、『淑徳高校にします』と答えた。
 先生としては、もう三ランク上の学校が狙える成績だけに、少し残念なようだ。
「本当にそれでいいのか?」
「はい。寮生活や遠距離通学は嫌なんです」
「まぁお前が決めた事なら仕方ない……」
「すみません」
 いよいよ中学校も最後の日、その帰り道にあんみつ屋の前で、先週のバレンタインにチョコをくれた子とばったり出会った。思えば周りから冷やかされないよう、黙って受け取ってしまったのだ。まだ何の返事も返していない。
「こ……こんにちは」
「あ……ああ」
「迷惑だったかしら」
「いや、こちらこそ返事もしなくてゴメン」
「気にしないで。私の事、覚えていてくれただけで十分だから。それより……」
 彼女の視線は、僕の胸元辺りに注がれた。
「その……第二ボタン。私にください!」
「ああ、これね」
 僕は第二ボタンを引きちぎると、彼女の掌にそっと乗せた。黙って俯く彼女。
 それからしばらく彼女と同じ方向に歩いた。先に口を開いたのは彼女の方だ。名前は『のりこ』と云う。いい名前だ。背丈は僕の肩までしかないのに、バスケット部に所属している。ひとつ年下だ。
 僕は先日の返事方々、デートに誘った。
「今度、ボーリングに行かない?」
「は……はい!ぜひ!」
「じゃあ電話番号、教えてくれる?」
「父が厳しいから……そうだ!先生からとか誤魔化してくれます?」
「うーん……クラスの連絡網とかは?」
「さすが井上さん!頭いい!」
「そうか?じゃあ今度電話するよ。連絡網って事で」
「ははは……お待ちしてます!」
 一緒に歩いた時間からすれば十分くらいのものだったが、僕にとっては一時間以上にも相当するくらい楽しいひと時だった。
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