青春の蒼いカケラ
 先に殴り掛かってきたのは副番だ。ヤツの一発は顔面にヒットし、僕の唇の端の方が切れる。そこで僕の感情もキレた。
 一発、裏拳をお見舞いしたところまでは覚えているが、その後は確実に体格の違う連中にボコボコにされたので記憶が飛んでいる。
 それでも根を上げなかった僕に対し、番長が“男”として認めてくれた。これでこの学校に僕の居場所は確立した事になる。
 翌日登校してきた僕を見て、また担任に職員室に呼ばれてしまった。
「お前、その顔の痣は何だ!」
「問題ありませんよ」
「だから理由を聞いているんだ!」
「自転車で転んだんです。他に用事がないなら、これで失礼します」
「ああ。井上」
「まだ何か?」
「お前はこの学校に成績九番で入学した優等生だ。不良なんかとこれ以上係わるな」
「関係ないっすよ。では」
「少しは自覚してくれよ」
 担任の話も半分に、僕は職員室を黙って出た。D組の教室に戻ると、隣の席のハルオちゃんが心配そうに声を掛けてきた。
「なおちゃん。先輩に呼び出されたんだって?大丈夫だった?」
「ああ、大した事はないよ」
 そう返事する僕の顔は、昨日の喧嘩で痣だらけだ。ハルオちゃんが僕の顔を覗き込む。
「なぁなおちゃん。俺と一緒に柔道部に入らないか?」
「へぇ……ハルオちゃんって柔道やってるんだ」
「ああ。もっと強くなれるぞ」
「やめておくよ。僕は少林寺やってるんだ」
「そうか……それは残念だ」
 その日以来、僕はハルオちゃんと意気投合した。ハルオちゃんは柔道も強かったが、それ以上に頭も切れる。
 そんなある日、ハルオちゃんが『なおちゃん。一年を俺達でシメないか?』と言ってきた。幸い、僕が学年をシメても番長はこの間の事もあって文句は言わない。
 ハルオちゃんの話だと、集まってきた別々の中学で番格だった三人さえシメてしまえば、恐らく一年は纏められるだろう、と言うのだ。
 さっそく翌日から僕らの闘いは始まった。
 僕がトイレまで呼び出し、ハルオちゃんと合流して容赦なく潰す。敵はたったの三人。学年をシメるのに一週間と掛からなかった。
 それからの僕は不良街道まっしぐらだった。
 麻雀、酒、煙草。
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