青春の蒼いカケラ
 ノリちゃんが僕を追い掛けて淑徳高校に入ってきた。彼女は一年B組。僕は上階にある彼女のいる教室にちょくちょく顔を出すようになった。手作り弁当も持参してくる彼女の気持ちを考えて昼は二人で食べていたが、実は母親の弁当も持参していた。母親の方は二限目が始まる前に食べる。普段から運動をしているので、これでも全然太らない。
 彼女が放課後、僕の教室まできて『一緒に帰ろう』と言ってきた。同じ学校に入ってからは、これが初めての事だ。
「いいよ」
「ありがとう。じゃあ校門で先に行って待ってるね」
 彼女はこの日、初めて家までやってきた。母親に彼女を紹介すると、僕が何を言うでもなく先に『ノリコと言います。よろしくお願いします』と言って頭を下げた。
 好印象だ。先制攻撃に母も『よろしくね』と言って頭を下げる。
 僕は彼女を部屋に連れて行き、そこで得意のギターを弾いて聞かせた。当時の流行はサイモン&ガーファンクル。ギターだけではなく、CDも聞かせてあげると、『いい曲ね』と言って、喜んでくれた。
「ねぇ、これ何て曲?」
「これは『明日に掛ける橋』って曲。知らない?」
「うん。聞いた事ある。へぇ……そんなタイトルだったんだ」
「今度、CD貸してあげようか?」
「ありがとう。でも家、ラジカセないから」
 そんな何気ない会話が楽しい。これが僕の青春だった。こんな日々がずっと続くと信じて……僕は毎日を謳歌していた。
 ある日、ハルオちゃんが『おい、次の体育の時間な。女子の意替え、覗きに行こうぜ』と、とんでもない事を切り出してきた。言い出しっぺのハルオちゃんに賛同した男子が数人、既に乗り気になって、ハルオちゃんの周りに集まっている。
 ハルオちゃんとジュンちゃんとカッちゃん。最近よく一緒にツルんでいる悪ガキトリオだ。
 

 
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