青春の蒼いカケラ
 少林寺の先輩にタカギさんがいる。
 同じ高校の先輩で、昔から知っている人だが、その日、『ちょっと顔貸してくれ』と、卓球部の部室に呼ばれた。
 部室の暗がりには三人の人影が見える。
 タカギさんに紹介されたその中のひとりが口を開いた。
「俺が今度、変わって番長に就任したハジメだ。お前を見込んで頼みがある。裏番をやってみないか?」
「裏番?何ですか?それ」
「裏番って言うのはだな。つまり、影の番長。表立って番を張るのは俺だが、お前には裏で仕切って欲しいんだ」
「何で俺何かに?」
「そろそろ三年は卒業が控えている。それに今の三年にはその資格がある人間がいない」
 タカギさんも『いい話だと思うよ』と言ってきた。確かに悪い話ではない。
 僕はその場で裏番を引き受けた。
 僕が裏番に就任した事で、その日のうちに噂は広まり、学校中が僕に一目置くようになった。悪い気はしない。
 そんなある日の事、番長に就任したばかりのハジメさんに呼ばれた。
「今度、タイマンを張る事になった。相手は五所川原農業高校だ」
「タイマンって事は、ハジメさんがひとりで行くんですか?」
「いや、変則で三対三のバトルロワイヤルだ」
「って事は僕も?」
「ああ、お前にもきて欲しい」
「解りました。で、どこでやるんですか?」
「猟師町の浜辺。相手がこちらに出向いてくる事になっている」
「決行日は?」
「今度の日曜。昼過ぎだ」
 最初から僕も頭数に入っていたらしい。
 当日になって、五所川原農業高校の連中が、舎弟を引き連れて現れた。こっちにも最悪の事態を考えて舎弟が従ってきている。こちらも相手も舎弟に『手を出すな』と命じ、僕らは円の中心に立った。相手も三人、強そうな連中が前に出る。その中からひとりずつが一番前に出た。
 最初は裏番である僕の番だ。相手も同じ裏番だと云うのに、一際身体が大きい。
 近くで見上げると、その大きさの違いが、余計はっきりする。
 僕は身を低く構え、相手の懐に飛び込み、殴り掛かる相手の腕を捕えると、その拳を裏拳で返した。思わずバランスを崩した隙を狙って金的蹴りを入れる。
 勝負は着いた。
< 26 / 156 >

この作品をシェア

pagetop