青春の蒼いカケラ
相手は股間を押さえたまま、大きな身体を左右に揺すって悶えている。控えている相手の表情が変わった。
次に進み出たタカギさんも同じ少林寺の達人だ。恐らく大将のハジメさんが出るまでもなく勝敗は決まる。
思った通り、ものの数秒でタカギさんは相手を熨してしまった。もはや勝負にならない。
慌てて逃げ出す五所川原農業高校の連中を尻目に、ハジメさんは僕らに『少林寺ってすげぇな』と言ってきた。本来ならば『喧嘩はご法度』なのだ。当然と言えば当然の結果だろう。それでも面子が保てた事に安堵するハジメさんを見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。
ハジメさんとタカギさんが卒業し、僕は三年生になった。学校でも手を焼く不良なのに、成績だけで見れば学年でもトップクラス。教師には、どうにも理解出来ないらしい。僕としては理解なんて事。してくれなくて結構だ。
担任に呼ばれ、『また小言でも言われるのか』と思いながら行くと、進路指導だった。確かに三年生。早く決めないとあっという間に卒業の日がきてしまう。
「井上、お前。進学するのか?」
「早稲田狙ってみようかと」
「早稲田か……確かに無理すれば入れない事もないな。お前の成績だと」
「……青山とかは?」
「同じだよ。ギリギリ引っ掛かるかどうか」
「そんな不確定じゃあしょうがない。だったら就職にします」
「へ?だってお前……」
「どこでもいいですよ。就職にします」
「そんな……」
その日の先生の落胆は、僕が迷惑を掛けた日々より深いものだった。僕としては、これ以上親に甘えて大学の四年間を過ごすよりも、早く一人前になって自由になる金が欲しい。
僕の決断は誰の想像よりも早かった。
先生に推薦状を書いてもらい、僕はT島屋に就職する事に決めた。これでまた都心に戻る事が出来る。青森が嫌いなわけではない。逆に感謝しているくらいだ。それでも上京する事に意味がある。
ハルオちゃんも同じT島屋に出した推薦が通り、二人仲良く同じ就職口に決まった。これでまた一緒にバカ騒ぎする事が出来る。
僕らは青春を過ごした青森に別れを告げ、一緒に東京へと旅立った。
次に進み出たタカギさんも同じ少林寺の達人だ。恐らく大将のハジメさんが出るまでもなく勝敗は決まる。
思った通り、ものの数秒でタカギさんは相手を熨してしまった。もはや勝負にならない。
慌てて逃げ出す五所川原農業高校の連中を尻目に、ハジメさんは僕らに『少林寺ってすげぇな』と言ってきた。本来ならば『喧嘩はご法度』なのだ。当然と言えば当然の結果だろう。それでも面子が保てた事に安堵するハジメさんを見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。
ハジメさんとタカギさんが卒業し、僕は三年生になった。学校でも手を焼く不良なのに、成績だけで見れば学年でもトップクラス。教師には、どうにも理解出来ないらしい。僕としては理解なんて事。してくれなくて結構だ。
担任に呼ばれ、『また小言でも言われるのか』と思いながら行くと、進路指導だった。確かに三年生。早く決めないとあっという間に卒業の日がきてしまう。
「井上、お前。進学するのか?」
「早稲田狙ってみようかと」
「早稲田か……確かに無理すれば入れない事もないな。お前の成績だと」
「……青山とかは?」
「同じだよ。ギリギリ引っ掛かるかどうか」
「そんな不確定じゃあしょうがない。だったら就職にします」
「へ?だってお前……」
「どこでもいいですよ。就職にします」
「そんな……」
その日の先生の落胆は、僕が迷惑を掛けた日々より深いものだった。僕としては、これ以上親に甘えて大学の四年間を過ごすよりも、早く一人前になって自由になる金が欲しい。
僕の決断は誰の想像よりも早かった。
先生に推薦状を書いてもらい、僕はT島屋に就職する事に決めた。これでまた都心に戻る事が出来る。青森が嫌いなわけではない。逆に感謝しているくらいだ。それでも上京する事に意味がある。
ハルオちゃんも同じT島屋に出した推薦が通り、二人仲良く同じ就職口に決まった。これでまた一緒にバカ騒ぎする事が出来る。
僕らは青春を過ごした青森に別れを告げ、一緒に東京へと旅立った。