青春の蒼いカケラ
顔馴染のコンビニ店員と、こうして時々会話をする事が、今の僕にとって、唯一、気の休まる時間だ。
「先週のレース。お蔭で勝てたよ」
「それはよかった。僕は散々だったけど。で、いくら勝った?」
「十五万……くらいかな」
「凄いじゃないですか」
「ああ、だから今日の缶コーヒーはおごりね」
「ありがとうございます」
 こんな会話を繰り返し、朝八時、最後の倉庫まで戻る頃にはへとへとになっていた。
 アパートの階段を上がる足にも疲労が溜まっていて駆け上がる事が出来ない。
 僕は横になって目を閉じた。かれこれ一週間以上、まともに睡眠が取れていない。
 ベッドで寝返りを打って、ふと耳を澄ませると、どこからともなく社長と保険屋の声が飛び込んできた。
「どうしよう……今回の事故は、井上君がやった、って事にするか?」
「そうだな……ちょっと可哀相だけど」
 僕は慌てて声のする方に目を向けた。誰もいない。当然だ。ここは阿佐ヶ谷。会社は豊島区にある。
 僕はもう一度目を閉じ、眠ろうと努力した。すると今度は同僚の声も聞こえてくる。
 僕は思わず『隠れてないで出てこい!どこにいるんだ!』と叫んでしまった。
 心配になって会社に電話すると、普段と変わらない社長の声に『いえ……何でもありません……』と言って電話を切った。
 自分でもどうしたらいいのか解らず、阿佐ヶ谷の街に飛び出した。周囲の視線が自分に集まってきて痛い。皆一様に冷たい視線を投げ掛けてくる。陰からこちらをちらちらと見ては、僕が気付くと視線を逸らせる。
 そんな気がした。
 僕は、今は埼玉に住んでいるカッちゃんに電話した。
「俺だけど……」
「なおちゃん?おお、久しぶり」
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