青春の蒼いカケラ
 気付けばハルオちゃんの手元には一円も残っていなかった。第五レースまでしか保たなかったらしい。
「ダメだなぁ……ま、こんなものか」
 隣でハルオちゃんが笑っている。
 僕の手元にはビギナーズラックで手にした残りの三千円がある。
「くそー……やはりあの五十万さえあれば……」
 街灯に照らされたハルオちゃんの背中がどこか寂しそうだ。
 僕は優しく『明日、またこよう』と言って、肩からコートを掛けてやった。
 翌日も朝からハルオちゃんはやってきた。
 でもどこか気落ちしていて、元気がない。
 僕は『これあげるから元気だしなよ』と言って、途中で下ろしてきた預金から十万を差し出した。
 結局、この日は賭け事はやめた。
 ハルオちゃんは、どうしても親友の大切な大金は使えないと言う。
 仕方なく、アパートに引き上げた二人は、それから毎日のように一緒になって競馬についての研究を始めた。
 僕も一通りの買い方やレースの読み方を覚え、もうハルオちゃんの助けを借りなくても自分なりの読みで馬券が買えるようになっていた。それでもハルオちゃんはレースの前日になると必ず現れる。
 あれから一ヶ月。
 もう半分諦めた頃になって、警察から『財布が見付かった』との連絡が入った。
 これはもうお祝い方々競馬場に直接乗り込むしかない。
 ハルオちゃんは初めて僕を誘った時と同じような笑みを浮かべ、『今日は絶対勝つぞ!』と拳を振り上げながら一足先にアパートの階段を駆け下りて行った。

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