青春の蒼いカケラ


    *  *  *


 朝九時五分。
 こんな時間、さすがにまだ誰もきていないだろうと思って乗ったエレベータに、ヒロコさんが駆け込んできた。
「井上さん、会社の鍵って持っていませんよね?」
「ああ。だって俺、昨日入ったばかりだし」
「そうですよね……まいったなぁ」
「どうしました?」
「実は忘れてきちゃって……」
「あちゃ」
「ちょっとここで待っていてもらえますか?急いで取ってきます」
 そう言って、彼女は元きたエレベータに逆戻りして、慌てて出て行ってしまった。
 せっかく早出したのに、これじゃ意味がない。
 僕は『戻ったら連絡、よろしく』と彼女にメールをして、会社の隣にあるファミレスに腰を落ち着かせた。鼻から白い煙を吐き出しながらコーヒーを流し飲む。何ともこの時間に幸せを感じる。
 どうやら僕は窓際の席で、小春日和の陽気に誘われて、眠ってしまっていたらしい。昨日は一睡もしていない。無理もない話だ。
 十二時を過ぎて慌てて会社に電話をすると、ヒロコさんが出た。
「井上さん?ごめんなさい!」
 彼女は電話越しに何度も謝ってくる。僕は会計を済ませると、ゆっくり会社に向かった。
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