青春の蒼いカケラ
 自販機でジュースを買って長椅子に座る。廊下の向こうから、以前、隣の部屋になった事のあるシュンちゃんが歩いてきた。彼はまだここに入院している。
「やぁ久しぶり」
「シュンちゃんか。久しぶりだな」
「なおちゃん、お金持ってない?」
「どうしたんだい?不躾《ぶしつけ》に」
「おごってくれないかなぁ……って」
「ジュース?」
「うん」
「じゃ僕の分も頼むよ。僕はコーラでいいや」
「解った、OK」
 僕は財布から三百円を取り出して、シュンちゃんに渡した。ジュースを買って戻ってきたシュンちゃんは、僕の隣に座った。
「なおちゃんは退院してからどれくらい経った?」
「うーん……一ヶ月ちょい、かな?」
「そっか……じゃあまだまだ、だね」
「ああ、まだ世間慣れしてないや」
「俺はまだもうちょっと掛かりそうだ」
「待ってるよ」
「ああ、外で会えるのを楽しみにしているよ」
 そう言って、僕はシュンちゃんと別れ、外来を後にした。まだハルオちゃんとの待ち合わせには時間がある。
 僕は先に席を取って、ひとり、煙草でも吸いながらハルオちゃんの登場を待つ事にした。
 それにしても腹が減った。考えてみたら、寝ているばかりで、昨日からまったく食事をしていない。どうせもうすぐ五十万が転がり込む。僕は昼から豪勢にステーキを注文した。ビールも頼む。こんな時間から少しいい気分だ。食べ終わって一服しているタイミングで、ハルオちゃんが、手に茶封筒を持って現れた。
 席に着くなり、僕の目の前にその茶封筒を投げ出し、『これ、約束の五十万な』と言って、おしぼりで汗を拭いた。
 『そうそう、これも』と言って、もうひとつ、リボンの掛かった小さな箱を後ろのポケットから出してくる。
 僕がその箱を開けると、中には黒い革製の長財布が入っていた。
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