青春の蒼いカケラ
 朝、出勤した僕を迎えてくれたのは、いつものようにヒロコさんだけだった。ハルオちゃんはまだきていない。僕の後から営業のヒロシ君も慌てて飛び込んできた。それでもハルオちゃんはこない。
 そうこうしているうちに、ハルオちゃんが新しい人を連れて現れた。僕ら三人が顔を突き合わせてから三十分は経過している。
 三十半ばの女性。見た感じ、キャリアは積んでいるようだ。
「ヨウコと言います。よろしくお願いします」
 取り敢えず皆、軽く拍手を送る。彼女の席は僕の隣だった。
 彼女がきてからと云うもの、お茶汲みの仕事はヒロコさんからヨウコさんに変わった。お茶汲みだけではない。話をしてみて判ったのだが、彼女はCADの扱いもプロ級の腕前だ。これでは僕の仕事がなくなってしまう。
 案の定、ハルオちゃんから『CADの仕事、彼女に引き継いでおいてくれ』と言われてしまった。僕が『じゃあ僕の仕事は?』と聞くと、『なおちゃんは競馬専門でいいだろ?』だと。同じ会社の中で、僕だけ内容が全然違う。まぁ社長命令だし、逆らう気はさらさらないが、いつものようにコーヒー一杯頼むのも気が引けてしまう。
 それでもヨウコさんは相も変わらず『コーヒー如何ですか?』と聞いてくる。結局、遠慮しながらも『ブラックで』と頼んでしまう僕がいるのだが。
 まさかこのまま『建築設計』と『競馬』の二本立てで会社を回す気なのでは……
 そう思ってハルオちゃんに話し掛けようとしたら、競馬新聞を突き付けられて『頼むよ』と先に言われてしまった。
 僕は、取り敢えず、パソコンでデータ収集を済ませ、僕のやり方で買い目を探った。これならいつでもいける。
 データはガッチリ固まった。僕の狙いに揺るぎはない。ハルオちゃんはそのデータを見ながら『実はな』と切り出してきた。僕の予感が的中。どうやら本気で競馬予想の事業も展開するつもりらしい。宣伝業務もハルオちゃんの担当だ。同じ会社に設計事務と競馬予想の二部門。これも立派な仕事のうちだ。
 一応、ヨウコさんがお休みの時は、相変わらずCADもいじる。これも僕の仕事のうちだ。競馬部門は僕と社長の二人だけ。それでも人員的には十分だ。
 予想を立てるのにちょっと時間が掛かって、窓から見えた月は、下半分だけを地球の陰に隠し、それを取り巻くように散りばめられた星々と
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