青春の蒼いカケラ
「いなよ」
「もし……もしよかったら私と……」
「へ?」
「いきなりごめんなさい。でも……好きになってしまったんです!……その……何て言うか……」
「ははは……僕でいいの?」
「はい!井上さんがいいんです!井上さんじゃなきゃダメなんです!私……」
「うーん……よし、解った」
「OKですか?」
「うん。改めてよろしく」
「うわぁ……私……その……」
「取り敢えず、カルピスで乾杯しようよ」
「はい!」
 その日、今まで仕事上での付き合いとは違った話で盛り上がった。胸の閊えが取れた彼女は、酔ってもいないのに饒舌で、後から後から身の上話を投げ掛けてくる。僕もそれに応えるように病気の事、競馬の事、僕に両親がいない事など、次第に打ち解けて、全てを包み隠さず彼女の前に晒した。彼女にも両親はいないらしい。
 彼女は実の姉との二人暮らし。両親がいない分、その姉がずっと彼女の親代わりだ。筑波大を出て二級建築士を取り、ハローワーク経由でハルオちゃんの会社に応募してきた。
 その日はドリンクバーだけで解散し、僕らは別々の帰途に着いた。帰りしな“ヒロコ”からメールが入り、僕らが付き合いだしたと云う事が実感出来た。

――今日はありがとう。よろしくね――

 簡単なメールだったが、今の僕にはそれだけで十分だ。
 僕の彼女。
 その彼女の気持ちが、今は僕の中にある。
 僕はスクーターで夜風を切り裂きながら、その思いを実感していた。

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