青春の蒼いカケラ
 同じ病院の患者には、結構、ヤクザ上がりの人が多い。こちらも目を付けられやすいのか、ちょくちょく目が合ってしまう。
 しばらくは我慢していたが、いたたまれなくなって、ついに病院の先生に相談した。その日のうちにその話はケースワーカーにも連絡され、三人で相談する事になった。
「そっか……怖いのか?」
「いや、そう言う事でもないんだけど……」
「困ったな……だったら新宿のクリニックに転院するかい?」
「新宿ですか?何か逆に……」
「大丈夫だよ。あそこの先生は優秀だし、患者もおとなしい人ばかりだから」
「だったらお願いします」
「紹介状出しておくから、それを持って今度行ってごらん」
「ありがとうございます」
 僕は早速、翌朝、招待状を持って新宿の病院へと向かった。通勤時間帯の京王線は立っているのもやっとなほど混雑している。駅からバスに乗って、さらにしばらく進む。バス停を降りて見上げたビルのどこにも病院の名前は出ていない。これならばもっとしっかり聞いてくるべきだったと思いながら近くのコンビニに入り、それらしい建物がないかどうか聞いてみた。普通の病院ならばその所在もたいてい聞けば判るのだが、精神科のある病院ともなれば、要を得た回答が返ってこない事も多々ある。コンビニの店員に『裏手に薬局ならあるけど……』と、曖昧な答えをもらい、向かった薬局の四階に病院はあった。
 そろそろ九時になる。病院が開いていてもおかしくない時間だ。エレベータで四階まで上がると、廊下の待合室に人はいるものの、病院のドアにはまだ施錠がされていた。
「はじめまして」
 僕が待合室にいた中年女性に声を掛けると、彼女はキョトンとした顔で『え?あたし?』とトンチンカンな返事を寄越した。僕の方に挙げた顔を再び手に持った本に移す。僕はただ何時に開くのかを知りたかっただけなのだ。
「あの……ここって何時からですか?」
「九時半。あと十五分ね」
「そうですか……早過ぎたか……」
「ね。あなた、詩とか興味ある?」
「あ、はい。僕も書きます」
「そう。奇遇ね。この本、ちょっと読んでみて」
 そう言って彼女は僕に手に持っていた本を手渡した。
 数ページ、パラパラと捲ってみる。
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