青春の蒼いカケラ
 意外とシンプルで、世界に入りやすい。
 僕は思わず、開院前に半分くらい読んでしまった。
「どう?ご感想は」
「いいですね。気持ちが素直に伝わってくる」
「ありがとう。これね。あたしが書いたの。よかったらあげるわ」
 彼女はそう言って、本にさらさらとサインをして、渡してくれた。
「オオバさんって仰るんですね」
「そうよ。あら、先生きたみたいね」
 僕らの横を白衣姿の先生が通過した。大きなガラスドアの下の施錠を解除する。いよいよオープンだ。
 僕は受付で紹介状を見せ、書類を書いて渡した。この病院は予約制ではなく、受け付け順で診察が行われる。開院前から並んでいたお蔭で、書類の作成に少し手間取ったのにも拘わらず、意外と早く僕の順番が回ってきた。
「主治医のイワタです。どうですか?最近ちゃんと眠れていますか?」
「ダメです。睡眠薬の効きが悪くて」
「解りました。ファルシオンを処方しておきましょう」
「どう違うんですか?」
「まぁ飲んでみれば解りますよ」
 簡単に診察を済ませ、僕が待合室に戻ると、そこにはオオバさんがいた。さっきと同じ本が手の中にある。どうやら一冊だけではなかったらしい。
「あら、井上さん。もう終わり?」
「ええ、これから喫茶店にでも行こうかと」
「ねぇ。確か井上さんも詩を書かれるのよね」
「は。書いても自分だけで楽しむ程度ですが」
「いっその事出版してみない?」
「僕の詩が本に?」
「ええ。このコンテストに応募して通れば本屋にも並ぶわ。挑戦してみない?」
「えー……僕の作品なんか、通るのかな……」
「あたしの本をこれだけちゃんと評価してくれたくらいだもの。きっと通るわよ」
 彼女はそう言って応募用紙を手渡してくれた。僕の中にも淡い期待感
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