ちぐはぐ遠距離恋愛



実奈先輩の、『好きじゃないよ』であたしの心臓は一息ついて大人しくなった。


なんだか、こんな気持ちも無くさなければならないと考えると……



(先が思いやられますな…)


あたしはまた「ハハ」と力無く声を出す。



(何だか、思ったより辛いな)



たぶん、陽菜を見た時にもっと落ち込んでいれば少しはこの辛さ、


軽減できたのかもしれない。




「真白ちゃん…っ」

「あ、おい先輩……」

「大丈夫?

びっくりしたね!確かに面食いの実奈ならわかるけど…」


葵先輩も水を飲んだ。


「あのね、あたし思ったの」

「へ?」

「真白ちゃん、村野くんのこと下の名前で呼んでるんだよね?」

「あ、はい」

「そしたら、真白ちゃんもあたしみたいにすればいいんじゃないかな?って」

「葵先輩みたいって、何ですか?」

「真白ちゃんも、下の名前じゃなくて苗字で呼べばいいんじゃないかな」

「諒太、じゃなくて、村野?」

「そう。さっき実奈に言ってた時みたいに」



(諒太じゃなくて、村野か……)



「慣れないうちは難しいけどね」

「あたし、十二年間で一度も呼んだことないかも」

「あたしもそうだったよ!ね、頑張ってみない?」


葵先輩はあたしの目をしっかり見る。

諒太は、いつの間にかあたしのことを『大野』って言ってた。

その時あたしは、耳を疑うような思いでいっぱいで…


もしかしたら―――




諒太も、そうなるかな?





そんな、



淡くて、切なくて――




ちっぽけな期待を持ったあたしは、




十二年間、貫き通したものを破り捨てて…

諒太の“り"の字も発音してやらないと決めた。






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