ちぐはぐ遠距離恋愛
「ダメだ……。何もかも負けてる」
と、幻滅する一方で…。
ため息をつく俺。
だが、一つだけ安心していたことがあった。
確かに大野は女子にも人気だ。
でも、他の男子は男だと見てる。
だからライバルは増えなさそう…だと思っていた…が――
「なぁ、浩一」
部活のキャプテンであるコウ先輩が俺の肩を叩く。
「あそこから顔出してんの、誰かな」
「え?…………っあ」
そこには長い髪を風に舞わせて窓から顔を覗かせた大野がいた。
「あれは同じクラスの大野です」
「大野……か」
こんときの先輩の顔は今でも思い出せる。
いつもとは違う、明らかに柔らかい表情で…
俺は目を疑ったが、それはもはや手遅れだった。
先輩はあれから窓ばかり気にする。
ついには、四時と五時になってからの十分間に顔を出す。
というのまで見つけてしまった。
「かわいいな、大野」
「あいつは男ですよ?」
先輩に取られたくなくて、必死に諦めさせようと大野の悪いとこだけを喋った。
でもそれを聞いても先輩の想いは変わらないらしい。
だけど、
先輩の大野を見つめる顔は、淋しい表情を浮かばせていた。
“でも、どうしようもない”―――そんなのが伝わって来る。
案の定、先輩はある日俺にこう言った。
「でも大野は、いつも違う方を見ているんだよな……。きっと俺のことも知らない」
「それってどういう意味ですか?」
なんて、聞けるわけがない俺は「何言ってんすか」と流す。
ただ、自分が一番気にしているのは確かだった。