ちぐはぐ遠距離恋愛



〜榊原side〜


俺の友達が蹴ったサッカーボールは、綺麗な弧を描いて跳んでいった。

最初はみんな「あっ」としか声を出さなかったが、ボールの向かう先を見て表情が変わる。

クラスメートの加藤に当たろうとスピンをかけながら空気を突き進んで行ってしまうからだった。


もう間に合わないかもしれないと思いつつも、
「よけろ加藤!」そう言おうとした時だった。


小さめの影がピュッと姿を現した。

長い黒髪が風に乗って後ろに流れる。

そんなのを気にせずその影は加藤の前でジャンプをした。



それからは、世界がスローモーションになった。

音は消えて、校庭にいる全員が一点を見つめた。


砂埃を地面に少し立てながら、人間とは思いがたいほどの軽やかさで加藤の頭上に高く跳ね上がった影。

振り回した右足にまるで吸い込まれるかのように俺らのサッカーボールは進んで行き………




バンッッ!!!!




とゴム独特の鈍い音を出して軽く凹んだ。

そのボールは今までとは違う反対側――つまり俺達の方へブーメランのように戻ってきた。



ポンッポンッポンポン……とリバウンドしながら足元に転がる。

久しぶりに音を聞いた気がした。

そのあと、
ズザッと砂の音を立てて影が着地。

「ふー」と息をはき、額の冷や汗を拭う。





それが、






俺の初恋の始まりとなった、とある昼休み。





ちなみに今の話は、



“勇者の行動”として武勇伝になり、この学校に語り継がれることになったりする。








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