ちぐはぐ遠距離恋愛
「先輩立候補しますか?!」
「あ、いや。あたしじゃなくて舞の…」
先輩はそういって『舞』先輩の方を見た。
それは背の高い女子、先輩のとなりにいた人だ。
この人は確か学級委員だった。
「まっしーは舞の応援責任者なんだ」
ってことらしく、先輩は舞先輩の立候補の応援代表ってわけ。
(なんだ)
「じゃ、やっぱ無理だから」
俺は踵を返す。
「はっ?おいちょっと待てよ!!」
「え、やんないの?」
ぴくりと耳が反応して俺の歩みは止まる。
振り向くと大野先輩が目を丸くしていた。
「榊原くん、やんないの?」
まるで子猫のような潤いのある上目遣い。
生殺しだろ、これじゃあ…。
抱きしめたくなる欲望を抑えて俺は完璧に入り口に背を向けた。
「先輩はやってほしい?」
「いや、別にそーゆーわけではないけど……でも、お似合いなんじゃない?」
お似合いなんじゃない?
お似合いなんじゃない?
お似合いなんじゃない?
俺の頭の中で踊るように響く天使の声。
雄弥の目を見て、俺は口を動かした。
「やる」
「っしゃあ!」
飛び跳ねた雄弥。
先輩と仲良く話していた三年生も笑顔で書類を渡してきた。
「じゃあこれで決定ね。榊原くん、頑張って下さい」
「はい…」
俺は書類を受け取り、また踵を返そうと片足に体重をかけた。
ところで、
「あ、待って」とストップの声がかかる。