ちぐはぐ遠距離恋愛



一匹のアゲハ蝶が、ふらりと屋上まで飛んできた。

季節外れのその蝶は、秋晴れの空によく似合う。


「お前は……ずるいよ」


あたしの声は誰にも届かず、冷えた空に溶け込む。

なんて、空しいんだろう……。

あたしが腕を置く柵に、蝶は優雅に止まった。


「なんで…そんなに…」


どうしてあんたは、



あたしが欲しいものを持っているの?




その場違いの場所でも映える美しさ。

空を飛べる羽。

どこにでもいれる存在。

どこにでも行ける体。

―――――自由さ。




あたしなんかが、あいつの隣には居れない。

蝶を見ていて、そう思った。

こんなに弱い自分に、今気づいた。




一人の男に勝手に縛られて……

そんな自分をしっかり硬い何かで守ってる。

自分から開くことができるのに小心者のあたしはそこから出ることなんてない。


まるで、“サナギ”


外の世界を知らないんだ。



たった一人の人間に愛されないことが、

たった一人の人間の近くにいれないことが、

たった一人の人間に、見てもらえないことが…





こんなにも辛くて、悲しくて―――

息苦しい………。




あたしの望む自由って、




―――――何??







< 316 / 420 >

この作品をシェア

pagetop