ちぐはぐ遠距離恋愛



冷たい秋風が音を立てて吹き抜ける。


「あの、先輩…あたし別に自殺しようとなんてしてませんよ?」

「え??」


先輩はあたしからやっと離れ、ちゃんと目を合わせた。

今まで見たことない表情で、あたしはを凝視する。


「え??」


同じ声と、調子で聞かれあたしもまた首を傾げた。


「いや、『え?』じゃなくてですね」

「死のうとしては…いない?」

「はい。ちょうちょがいて、それを追いかけようとしてただけです」

「そっ……か」


先輩は妙に脱力した感じで深いため息をついた。

あたしはすこしばかり微笑んだ。

周りの空気がほんわりと色づいた気がする。


「はぁ〜…ビビったぁ」

「ったく、はやとちりにも程がありますよ。ほら、授業始まっちゃうんで戻りましょう」


あたしは言いながら踵を返し、出口へと向かった。


「真白ちゃん!」

「はい?」


立ち去ったばかりの場所をもう一度見る。

先輩は、気まずそうな顔をしてあたしをまた見つめてた。

少しだけ肩を一度震わせた。

嫌な予感を、
感じて――――



「なんです、か?」

「何で、屋上にいた?」

「それは……気分転換、です。気分転換!」

「気分転換?」

「はい…何か?」


少し冷ややかな声で先輩に聞いてしまった。

それも、何だか、押し付けるような形で……



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