ちぐはぐ遠距離恋愛
鎌瀬に気づいた山内達はまだそんなに近くにいないのに喋りだす。
「お前ー!なーに喋ってんだよー!」
「うるさいやつら…」
鎌瀬は不機嫌そうにそう呟いてあたしを見た。
「じゃあ弟、よろしく」
「あ、うん。見込みはあるよ」
「ハハ、そうなの?大野は何段?」
「三段」
「すごいのか?」
「まぁ、あたしの歳で三段ってのは珍しいんじゃない?」
「ふーん」
鎌瀬は一度目を伏せ、
山内達をもう一度見る。
あたしもつられてそこに視線を向けた。
山内達はもうすぐそこまで来ていた。
集団の中には、村野の姿が見えて……あたしの顔からは笑顔が消えた。
それを、鎌瀬が見ていたのには気づかなかったけど。
あたしは早めに鎌瀬に視線を戻した。
鎌瀬はまだあっちを見ていたけど、
そのうち頬を緩ませた後、あたしの方に向き直って…笑顔になった。
でも少し、寂しい顔。
そして、小さい声であたしに言ったんだ。
「大野を好きになって、良かった」
…………って。
それは
言葉に表せないくらい優しくて、温かくて…
それでも、すぐに散っていってしまう儚い桜のような淡い切なさがあって―――
あたしは息が詰まった。
何にも言えなくて、
言葉を聞き返すことも出来なくて。
ただただ、
微笑む鎌瀬を見つめていた。