ちぐはぐ遠距離恋愛



時は止まったように、物音一つ耳に入らない。


「忘れたかったけど無理だったよ…」


鎌瀬は苦笑いをしながら首を傾けた。

あたしはまだ意味を理解出来てない。


「忘れる……?」

「諦めるでもいいか」


また切なさが込み上げる顔であたしを見る。

(諦めるって?)


聞きたいことも聞けないまま、鎌瀬は踵を返した。


「気にしなくていい。俺の自己満足だから」

「…………っ」

「じゃあな」


後ろから走ってきた山内達にのまれるように、鎌瀬はあたしの前からいなくなった。

それと同時に、サッカー部の列も途切れた。

あたしはハッと気づいて、動き出すけど

集中は出来なかった。


(あたしを…好きになって……良かった?)


それを解釈するには、鎌瀬の気持ちが足りなさすぎた。

言葉の意味でいいのかなんて、聞けるわけもなくて…



あたしは体全身にまだ残る感覚をもう一度思い返す。

身震いすら感じて、また動けなくなってしまった。


(鎌瀬……)


先輩に告白された時も、こんな感じだった。

彼等は、あたしと結ばれることがないと思いながら想いを伝えてくれた。

だから、榊原くんとはまた違うんだ。


大切に、大切に閉まっていたもので

出すことはないかもしれないと感じてたことだったんだろうか。


もしそうなら、




あたしも、同じなのに…………





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