ちぐはぐ遠距離恋愛



そしてこの鍵は、明らかにいけないほうの鍵だ。

あたしの弱々しい決心を、自由にしてしまうもの。




村野がこっちを向いた。

背中の方で、村野の腕が動いたのが分かった。





「濡れてる…」





その言葉とともに、肩をぐっと引き寄せられた。




「…………っ」




顔が熱い。

いや、顔だけではない。

全身から熱を発している。



解れ目は、広がった。


中から伸びたのは、二つの手だった。




「戻ってこいよ…」



大好きな、諒太の左手。



それに対して、伸ばされるのは……



『真白は幼なじみ、でしょ?………恋愛対象外なんだよ?
ほら、思い出して…告って失敗したら、幼なじみでもいられない』

遥菜と、


『あたしの諒太を、奪わないで!』


八重島………。





「大野?」


村野の声で現実に引き戻される。


「大丈夫か?」

「あ、うん」

「そうか」


村野の手は、肩から離れていない。

あたしは、震えそうな声をゆっくり出した。


「ねぇ、村野」

「あ?」

「…………」


それでもいざとなって言えないのは、



あたしが小心者だからですか?




「どうしたんだよ…大野」




この瞬間に、溜まっていたものが上に上がって来たのは、




あたしが、


村野の手を取ってしまったからですか?





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