ちぐはぐ遠距離恋愛
小学校に上がるまでは『真白ちゃん』
ランドセルを背負ってからは『真白』
そして、中学生になると『大野』
呼び名を変えたことに、俺としてはなんの意味もなかった。
ただ単純に、周りのやつらが名字で呼ぶからそれに流されただけ。
『真白』でも『大野』でも、自分にとってはどうでも良くて重要性なんか無かった。
実際、あいつ本人の前で口に出したのは結構後だ。
入学式からクラスも違うためあまり話さず、用があったとしても「おい」とかで話しかけて、お互い名前を言い合う会話なんてしていなかった。
だが、男子の中でも『男らしすぎる女』として有名なあいつが話題になるときには『大野』と言っていたため、慣れるのには充分だった。
悪気だって無かった俺は、いつの日か初めて『大野』と呼び掛けた。
これまで別になんとも思わなかった俺の心は………
あいつの切なそうな表情を見て罪悪感に飲み込まれていく。
それでも呼び方を変えなかった俺だが、あいつはまだ自分のことを『諒太』と呼んでいてくれるのを知っていた。
でもそれも、二年の夏休み後には終わっていた。
『村野なんか……』
その言葉を聞いて目を見開く。
味わったことない感覚。
何でこんなふうな気持ちになるのかすら分からなかった。
涙を流して出ていくあいつ。
俺は追いかけることもなく、目の前に空いた空間を見つづけた。