ちぐはぐ遠距離恋愛



小学校に上がるまでは『真白ちゃん』
ランドセルを背負ってからは『真白』
そして、中学生になると『大野』



呼び名を変えたことに、俺としてはなんの意味もなかった。

ただ単純に、周りのやつらが名字で呼ぶからそれに流されただけ。


『真白』でも『大野』でも、自分にとってはどうでも良くて重要性なんか無かった。


実際、あいつ本人の前で口に出したのは結構後だ。

入学式からクラスも違うためあまり話さず、用があったとしても「おい」とかで話しかけて、お互い名前を言い合う会話なんてしていなかった。

だが、男子の中でも『男らしすぎる女』として有名なあいつが話題になるときには『大野』と言っていたため、慣れるのには充分だった。


悪気だって無かった俺は、いつの日か初めて『大野』と呼び掛けた。

これまで別になんとも思わなかった俺の心は………



あいつの切なそうな表情を見て罪悪感に飲み込まれていく。

それでも呼び方を変えなかった俺だが、あいつはまだ自分のことを『諒太』と呼んでいてくれるのを知っていた。

でもそれも、二年の夏休み後には終わっていた。


『村野なんか……』



その言葉を聞いて目を見開く。

味わったことない感覚。

何でこんなふうな気持ちになるのかすら分からなかった。

涙を流して出ていくあいつ。

俺は追いかけることもなく、目の前に空いた空間を見つづけた。




< 373 / 420 >

この作品をシェア

pagetop