ちぐはぐ遠距離恋愛
ツリーをもう一度眺めてから駅前を出た。
曇りの空からはまた白いものがふわふわと舞い降りた。
「「………雪」」
二人で自然に声が揃う。
それは前にもあったけれど、今とは全然違う。
優しく花びらのように落ちて来るのを手にのせる。
儚く溶けていく様子に顔を見合わせて、微笑み合う。
そんな感動を分かち合えたから。
「………なぁ」
「…ん…?」
「兄貴が好きだったことってあったか?」
「は?別にない…けど」
「……少しも?」
「少しも」
(だってあんたが初恋なんだよ)
と言いたくなるのを抑えて、あたしは首を傾げた。
「何で?」
「俺、ずっとお前は兄貴が好きなんだと思ってた」
「なっ?!」
どうやらこいつは、とんだ勘違い野郎だったらしい。
聞くと特に理由なんてなく、ただなんとなくそう思っていたのが本当に見えてきたらしい。
「馬鹿じゃないの?!」
ってことは、
(あたしはこいつの勘違いに十年間振り回されてきたわけだ)
それが分かり肩を落とす。
どっと今までの疲れがのしかかった。
「………んだよ。紛らわしい反応するお前がわりぃんだ」
「はぁ?ふざけんな!あたしのせいにしないでよ勘違い馬鹿!」
てな感じで、想いは伝わっても関係上は全然変わらないらしい。
ただやっぱり、距離感が違った。
遠回りをしなくても触れられる。
目の前にあるのに触れられない背中が、今はあたしのすぐ横にあった。
「…村野…」
「…………」
「無視?」
「いや、違うだろ」
そう言う諒太の顔はまた赤かったがあたしはよくわからなかった。
無視される意味も、
違うという意味も。
そんな反応を見て、諒太は恥ずかしそうにしながらも耳元で囁く。
「俺が真白って呼ぶなら、お前も違うって意味だ」
それは小さくて小さくて、
聞き直したくなるような言葉だったけれど…
あたしをときめかせて、幸せにするには充分過ぎるものだった。