若恋【完】
仁さんはそばのソファーに腰を降ろして、わたしをじっと見た。
「あんたには何もしない。怖がらなくてもいい。俺はあんたを自由にしてやりたいだけなんだ」
そう言った。
わたしを自由にしたい、この世界とは違う元いた世界に戻してやりたいと。
わたしは奏さんが好きだった。
離れたくない。
「仁さん、一緒に帰ろう……」
けれど。
仁さんはわたしを奏さんの元へ返そうとはしなかった。
時間だけが過ぎてく。
暗くなるとどこからか食事が運ばれてきて、仁さんと一緒に食卓についた。
せっかくのご馳走も味がわからない。ほんの少し口にして下げた。
月が傾き、
「何もしないから眠っていいぞ」
そう言われて、とても眠れる気分にはなれなかった。
身の危険は感じなかったけど、どうしても眠る気になれなかった。
部屋の時計を見ると奏さんと映画館で離れてからもう十時間以上が経っていた。
「この部屋のベッドで眠ればいい。俺は隣の部屋にいく」
仁さんが小さくため息をついて腰を上げた。
その時。
ドン!!
バンバン!!
真夜中に耳をつんざくような爆音が。