若恋【完】


榊さんの代わりに毅さんが護衛についてしばらくした頃。

「今日、明日家には帰れそうにない」

奏さんからの突然の電話は重い声だった。

「なにかあったの?」

電話の向こうで重い空気が漂う。

胸の中に広がる不安……小さく灯った不安は広がるばかり。
胸騒ぎがした。

「奏さん、なにかあったの?」

「……いや、何もない」

そんなはずない。わたしの勘が外れてるわけがない。こんなにもはっきり感じてるのに…

「今、どこにいるの?」

「―――会社だ」

やっと一言。
でも、それが嘘だって。
そんなのすぐわかる嘘なのに。
わたしにはわかるのに。

知られたくないってことはなにかがあるの?

「わかった。奏さんが帰ってくるのを待ってるね」

電話を切って。
わたしは上着に袖を通して一階へ降りた。
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