若恋【完】



宵。



タクシーを降り、正面から堂々とひとり龍神会へ乗り込む。


ビルの内部はそれほど複雑ではなく、名を名乗ると龍神会の若き跡継ぎの前にすぐに通された。

龍神会の先代は名のある立派なヤクザであったと評判だったが、跡継ぎは横柄な態度をとる青二才で世の中の動きを理解していないと悪評だ。

俺と似ていると噂できいたことはあったが、会った瞬間に言葉を失った。



姿形は似てる。
確かに似てる。



話し合いになることもなく、跡目を継いだ男に、有無を言わせずビルの一室に閉じ込められた。

噂で聞く性格。
悪評の通りだった。



「拐ってきた女を帰してやれ?」

「そうだ」

「冗談でしょ、まだ使える手駒をむざむざ手放したりはしないよ」

「俺が来たら、女は家に帰す約束だったはずだ」

「そんな約束は知らない。した覚えもない」



「く!」




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