若恋【完】
「…なんでもない」
スイッと目を反らして強引にわたしを引き寄せた。
「奏さん?」
「………」
「………」
妙な空気と僅かな沈黙。
わたしがまるでマズイ空気を作り出したみたいに感じられて、慌てて奏さんから顔をあげた。
「わ、わたし部屋に戻ってるね」
ドキドキ
ドキドキ
草履を突っ掛けて、部屋に戻り背中でドアを閉めた。
「桐花さん、桃花さん!」
シン
飛び込んだ先の部屋には、いるはずのふたりの姿はなかった。
―――どうして?
どうしていないの?
どこに行ったの?