若恋【完】
「どこへ行くんだ?」
奏さんの唇の端が上がる。
わたしから離れていてもまるで声が耳元でしてるみたい。
ショーの終盤まで一也さんに掴まれていた森内狸はもう顔色が悪いとかそんなんじゃないくらいの状態で、もう支えられてないと崩れ落ちてしまうほどだった。
「勝負ついたな」
わたしの前で踏ん張っていた仁お兄ちゃんが張り詰めていた息を吐き出した。
「後は差し出した毒をどうするのか、だな」
仁お兄ちゃんは呟いて安心したようにわたしの目を見た。
―――ん?
何か違和感がある。
わたしが奏さんと森内狸を見てたらそう思った。
何かが引っ掛かったのだけど。
頭の中の記憶の底を浚ったけれどそれは何かだとわからなかった。
わたしのいる位置から奏さんと魂の抜け落ちた森内狸が見える。
ショーが終わり幕が引かれて会場は元のようにあちこちの談笑が聞こえるくらいになった。