若恋【完】
奏さんのお父さんが中央に向かって歩き出し半歩下がって榊さんも続いてく。
威圧感ある奏さんのお父さんが歩くだけで周りの目を集めて、注目が集まっていく。
ざわめきが消えていく中、誰もが息を飲んでみつめている。
「森内、おまえに渡したいものがある」
つ、と目線だけ榊さんに向けるとすぐ後ろにいた拓也さんがふたつのワイングラスを差し出した。
「森内、受けとれ」
蒼い顔して震える指で命じられたままグラスを受け取った。
「これに見覚えはあるか?」
微かに頭を下げた榊の手からお父さんが小さな袋をふたつつまみ上げた。
わたしが彼女たちから預かった毒薬だ。
小さな袋の端に赤色の印をつけてある。
「ありません」
森内狸の声が最後は聞き取れないほど小さくなる。
「そうか。わかった」
さらさらさら
森内狸のグラスに袋に入った粉を振り入れた。