若恋【完】
「…奏さん」
夜中の病院での騒ぎが、眠っていた女性たちを起こした。
何事が起きたのかと、みんなが廊下に出てくる。
「ちっ!」
黒ずくめが舌打ちをした。
みんなが明るい服を着ている中で、全身黒ずくめは異様だった。
みんなの注目が集まっていく。
前からも後ろからも。
「その赤ん坊を返せ」
ざわっ
空気が大きく揺れた。
「え?赤ちゃん?」
「誰の?」
「あの男、赤ちゃんを盗みにきたみたいよ」
「もしかしてわたしの赤ちゃんかも」
「もしかしたらわたしの赤ちゃんかも」
新生児はみんな同じ白い産着を着ている。
白いおくるみで包まれて顔まではっきり見えない。
女性たちがみんな顔を蒼くしたまま黒ずくめを見つめてる。
「ふ、ふにゃ、ふぎゃあ」
今まで黒ずくめの腕の中で大人しくしていた子が、グズって泣き出した。