Glacial HEART [短編]
希
「ちゃんと掴まっててよ?」
さっきと違って優しい口調で言う。
私は湊都の背中にぴったりくっついて、お腹の方に手を回した。
「綺夜がね!なんて言おーと俺は!離れてやんないんだから!!」
自転車をこぎ始めた湊都が唐突に言うのが、目を瞑っている私にぼんやり聞こえてきた。
「そんなにふらふらのくせに、よくあんなこと言えるよね!綺夜のばかっ!!」
ばかなのはよく知ってる。
「綺夜には必要ないのに、おせっかいでこんなことしてごめんなさいね!」
一方的にまくしたてる湊都。
それをなんとなく聞いてただけなのに、なぜだか涙が溢れて来ちゃって。
「…ぐすっ…っ」
極力声を出さないようにしたんだけど、すぐ真後ろに座っているから気付かれてしまった。