あの夏を生きた君へ
どんどん暗くなる山の中であたしは焦っていた。
悠の手を引きながら。
走って、走って、夢中で走った。
道に迷ったと気づいた時にはもう暗くなっていて、二人ともボロボロだった。
悠は二回も転んで顔と膝を擦り剥いていた。
雨に濡れ、泥だらけで、心細くて、不安で不安で。
疲れきったあたしたちには、これ以上歩く気力も体力も残ってなかった。
たった二人きりの山の中、
暗闇がぽっかりと口を開けていた。
もう耐えられなかった。
耐えられなくて、あたしはわんわん泣いた。
まるで、この世の終わりみたいに。
悠は泣かなかった。
ただ、じっと黙って膝を抱えて座っていた。
今思えば、あたしが泣いたから悠は泣けなかったんだと思う。
「…それでどうしたんだ?」
「……お母さんが迎えにきたの。」