あの夏を生きた君へ
疲れ果て、泣き疲れた頃、あたしの名前を呼ぶ声を聞いた。
それがお母さんだと理解すると、嬉しくて嬉しくて必死で叫んだ。
「お母さーん!!お母さーん!!」
あたしと悠を見つけたお母さんは、心底ホッとしたという顔をした。
でも、それから目にいっぱい涙を溜めて、あたしの頬を打った。
「何してんの!?アンタはっ!!」
お母さんは叫びながら、きつくあたしを抱きしめる。
息苦しいくらいに。
「どれだけ心配したと思ってんの!?お母さん、ちづに何かあったら生きていけないのよ!!分かる!?」
打たれた頬が痛かった。
それ以上に心が痛かった。
お母さんは泥だらけだった。
髪も服もグショグショに濡れていた。
あたしは、またわんわん泣いた。
お母さんの腕の中がびっくりするくらい温かかったことは今でも覚えてる。
あの日以来、神社はちょっとしたトラウマで一度も近づいたりしなかった。
「…まぁ、それだけなんだけど…。」
気まずい…。
最終的にお母さんの話になってしまったから照れ臭かった。
「そうか。」
彼はそんなあたしを見て笑う。
照れていることを見透かされてるようで腹が立つ。