あの夏を生きた君へ
外に置いておいたシャベルを掴むと、後ろから悠が追いかけてきた。
「何?そのシャベル。」
「成海には関係ないじゃん!」
大きな声を出すと、悠はわざとらしく肩を落とした。
「…ちづ、行かないのか?」
「は?何が?」
「祭りだよ、夏祭り。」
悠は、前を通り過ぎていく浴衣姿のカップルを見ながら言った。
「行くわけないじゃん!」
地元の夏祭りなんかに行ったら、美季や高嶋たちに会うかもしれない。
絶対に嫌だ!
そんなの死んだほうがマシだ。
「けど、花火も上がるしさ!ちづ、ガキの頃は楽しみにしてたじゃん。花火に、金魚すくいに、かき氷!」
悠の記憶力は何なんだ?
あたしの好きなもんなんて、よく覚えてられるよ。
「だから行かねって。」
「何で?」
「はぁ!?んなに行きたかったら他の奴と行けよっ!」
「俺は…俺は、ちづと行きたいんだ。」
そう呟くと、悠は急に焦ったみたいにあたしから目を逸らす。