あの夏を生きた君へ






夏祭りへ向かう人の流れの中で、あたしはあたしだけが一人ぼっちだと思った。


花火も、金魚すくいも、かき氷も大好きなのに。
大嫌いになってしまいそうだ。



小さい頃は、ばあちゃんと夏祭りに行った。

両親とも行ったし、悠とも。


……去年は愛美と二人で行った。
去年の夏は楽しかったなぁ。

今年の夏は…今年の夏は、ばあちゃんが倒れたり、幽霊とタイムカプセル探したり、散々な夏。




あれ…そういえば、あたしは彼の名前も聞いていない。

今頃になって、そんなことに気づく。


……名前、何ていうんだろう。



「ち・づ・る!」


その声とほとんど同時に、背負っていたリュックサックが後ろへ引っ張られた。

あたしはそのまま転びそうになる。







< 113 / 287 >

この作品をシェア

pagetop